2017.05.02
古民家の歴史と手業を残したい。古民家愛あふれるオーナーご夫婦と「白栗の宿」
飛騨高山にある古民家宿、「白栗(はくぐり)の宿」に泊まってきました。
ご主人の白栗さんは、古民家が好きで好きで、好きが高じてお仕事にまでしたお方。古民家専門の不動産も扱っています。
そんな白栗さんご夫婦がライフワークとして営んでいるのが「白栗の宿」。乗鞍岳のふもとから築90年の古民家を移築し、リノベーションを経て生まれ変わらせた、こだわりのお宿です。
母屋にあたるご自宅(こちらも古民家)で、古民家宿への思い、じっくり伺ってきました。
まずは、お話をより深く味わうために、かんたんな基本情報から。
何気なく目にする機会が増えてきた「古民家」という言葉ですが、そもそも……?
1)そもそも「古民家」って何でしょう?
法的な定義はありませんが、ひとつの目安となっているのが、国の登録有形文化財の制度です。築50年以上の建築物という築年数に準じて、「築50年以上かつ日本古来の伝統構法で建てられた住宅」を、一般的に「古民家」と呼んでいます。
2)なぜいま「古民家」が見直されているのでしょう?
古民家の魅力は、古さが味になること。現代の建物では見られないほどしっかりした梁や、開放感のある高い吹き抜けなど、歴史のなかで磨かれてきた建物の美しさには、目を見張るものがあります。
もうひとつ、耐久力の観点からも、古民家はすばらしい建物です。木は、年月をかけて水分を抜くと、強度が上がるという特性があります。耐久年数の高い木材をぜいたくに使った古民家は、築年数の古いものほど価値が上がり、何世代にもわたって住み継いでいくことができます。
いかがでしょう。「古民家」愛、すこし芽生えてきたりしませんか?
基本情報をおさえたら、さっそく、古民家愛たっぷりの白栗オーナーさんのお話、伺ってみましょう!
―なぜ、古民家宿を開こうと思ったのですか?
「もともと古民家が好きで、好きが高じて古民家を移築、改修して自宅として住みはじめたところがはじまりです。そこから古民家暮らしのよさを広めたいと、古民家専門の不動産屋をはじめることになりました。
古民家に住まうということは、その家の長い歴史を引き継ぐことであり、それを将来に残していきたいという思いを持って古民家と関わっています」
―いち押しポイントはどこですか?
「薪ストーブですね。手入れは大変だけれど、長く使えます。冬の間は、ずっと火を落とさないようにしています。
古民家は寒いんじゃないかと聞かれることが多いのですが、きちんと断熱材を入れて、ストーブを焚けば、冬でもとても暖かいんです。温室効果で、リビングの花もよく育ってくれていますよ(笑)」
「もうひとつは、母屋の二階にある梁と神棚ですね。
小屋梁構造が、まるで岩谷のように見えたので、あえて二階に神棚を置いてみました。太い梁が複雑に巡らされているところ、これに惚れて移築してきたようなものです」
―古民家に暮らすうえで、不便なことなどはありますか?
「不便なことはありますが、あえてそこを求めることに意義があるのだと思います。
古民家暮らしでは、わずらわしいことを挙げればきりがありません。でもそのわずらわしいことは、古民家暮らしの「特徴」であり「特長」なのです。
「住む家」と「棲む家」でいえば、古民家暮らしとはまさに「棲む」ことなのです。良いことも悪いこともすべて受け入れて棲むことだと思います」
―オーナーさんのご自宅も、白栗の宿も移築されたと聞きました。日本家屋を新築されるという選択肢はなかったのですか?
「古民家にまつわる問題は、継ぎ手がいない、打ち捨てられていて手のつけようがないなど、いろいろあります。
そのなかでも一番の問題は、古民家建築に注ぎ込まれている職人の技術、今も受け継がれている技術が、失われていく危機に瀕していることなのです。技術と現場は表裏一体、一方が無くなればその一方も無くなるのです。
ですから、古民家を移築し再生することで、職人の技術も伝えていくようにしています」
ひとつでも多くの古民家を残したい、職人さんの手業を次世代に伝えていきたいという思いが熱く伝わってきました。ご自宅と同様、「白栗の宿」にも、オーナーさんの古民家愛がいっぱい詰まっています。
小さな潜り戸を開ければ、木の香りの心地よい、和モダンなお部屋が迎えてくれました。
真っ白な窓の外を、障子越しに眺めながら飲むお茶。最高です。
飛騨高山の美しい自然に囲まれた、ご主人こだわりの秘密の隠れ家のような宿。あなたも「白栗の宿」に泊まってみませんか。